ヴァンパイアの夢を見た

時々、妙に鮮明な夢を見る。
まったく不思議なことだが、夢は昼間の僕の想像力を遥かに超えていて、なんとも楽しい。夢の続き見たさに布団から出たくない、なんて思うこともしばしばだ。
実はついさっきまでうたた寝をしていたのだが、また妙な夢を見た。
場所は埼玉の実家。間取りは正確だが、置かれている家具が微妙に違っていた。
家族はそこで、全長10cmほどの大きな蛾を一匹、飼っている。(僕の現実の父親は蛾が大嫌いだが、夢には登場しなかった)
この蛾だが、餌がとろろ昆布だった。
実家に遊びに来ていた僕の友人(誰だか思い出せない)が、蛾がとろろ昆布を食べるなんて信じられん、というので、僕が実演してみせるのである。
リビングへゆくと、南側の窓際にある灯油ヒーターの近くに、白くて大きな蛾が留まっている。僕は、とろろ昆布をひとつかみ袋から取り出し、蛾の近くに置く。ひとつかみ、というのは直径3cmほどの塊を想像してもらいたい。全長10cmほどの蛾が、3cmほどのとろろ昆布の塊にわずかに羽ばたきながら近づいていく。
「びっくりするくらい凄い勢いで食べるよ」
と、僕は友人に言う。蛾がとろろ昆布まで到着すると、一瞬の間をおいた後、3回に分けてとろろ昆布の塊が小さくなる。結局それは2秒ほどで跡形もなく消えてしまう。

蛾がとろろ昆布を食べるなんて、まったくとんでもない想像である。そんな話は聞いたこともない。しかしそれが鮮明に映像化されてしまうのだから、夢とは本当に不思議なものだ。

別の夢の話。これは、一昨日だったか。ちょうど、川端康成の「片腕」というのを読んだ後だったので、なんかしらその影響はあったかもしれない。

10人ほどの友人たちと、研究室のような部屋にいる。
何かのきっかけで、僕はその中の一人をひっ捕まえてその両腕を捉え、うつぶせにして床に組み伏せた。「手伝って!」僕はすかさずそう叫び、同じ部屋にいた他の何人かが足を抑えこむ。
相手は3つほど年下の女性だ。誰だか思い出せないが、夢の中ではよく知った相手だったように思う。
「あたし、本当は今年で42歳。」
唐突に彼女が言い、僕は一瞬驚くが、そうか、そういうことか、と何かを理解し、放心する。すぐに気を取りなおして、彼女の両手首を押さえる両手にぐっと力をこめる。

ふいに、彼女の左手が僕の右肩へ伸びる。うつ伏せだった顔が僕の方に向き直る。左手が僕の右肩を一度軽く掴み、再び床へと戻る。
何が起きたかよくわからない。僕はずっと彼女の両手首を押さえていた。ついさっきまで彼女の左手首を掴んでいたはずの僕の左手にふと目をやると、今は彼女の右手首を掴んでいる。僕の右手は彼女の左手首を掴んでいる。うつ伏せだった彼女は今、仰向けで僕の方を向いている。彼女がいたずらっぽく静かに笑う。
僕は彼女の顔から目が離せない。彼女の両腕が僕の顔へ伸びてくる。僕の両手は間違いなく彼女の両手首を押さえ込んでいる感触があるのに、彼女の両手はいま僕の両肩に添えられている。僕は怖くて自分の両手が何を握っているのか見ることができない。僕は必死でそれを床に抑えつけるが、彼女はそれを気にも留めない。
気づくと、僕の後方で彼女の両足を押さえ込んでいたはずの友人たちが僕の視界の右前方にいる。僕は少し慌てて、「おい!何やってんだ、頼むよ!」と叫ぶが、よく見るとちゃんと足を押さえ込んでいる。彼女の体の上半分と下半分は分断しているように見える。僕は一瞬言葉を失うが、彼らはあまり動揺せず、なんだか僕に言われて仕方なくやっている、という風なので、僕はついかっとして「しっかり抑えてろ!」と言い放つ。

目の前の彼女は平然と僕を見ている。
いろいろと異常な事が発生しているが、何故か必死なのは僕だけなのだ。

これは無理だ、と思う。

なんかもう、どうしようもないな、と思うと恐怖は消え去り、体の力が抜けた。
右前方にいる友人たちに向かって僕は明るくこう言う。
「ごめん、無理だった!あとよろしく!」

すると彼らは口をそろえて返事をした。
「ぼくらもう死んでまーす」

あ、そういうことなの。
僕は必死になってたのが自分だけだったのを理解して馬鹿らしくなり、ふっと吹き出す。
僕の両肩に手を添えた彼女は、それに答えるように微笑んで、僕の左の首筋へ噛み付く。
痛くないけど、ちょっと熱かった。
僕は眼を閉じて、これからどうなるのだろうと思いながら深呼吸をする。意識が無くなるのか、あるいはこのまま意識が続いたまま不死になるのかもしれない。それはそれで楽しいかもしれない。
なんて思いながら、熱くなった血液が左の首筋から全身へと回ってゆくのを感じている。

くらいで目が覚めた。

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