アーカイブ ‘ 2007年 4月23日

地下鉄で羽虫を取る変な男

地下鉄のシートに腰掛けて半ばうとうとしていた僕の顔面に、全長2cmほどの羽虫がまっすぐに飛んできた。
反射的によけたが、僕はそれほど虫に恐怖感はないので、平静である。
羽虫はすぐさまユーターンしたかと思うと、僕の正面に座っていた制服姿の女子高生のカバンに着地。

女子高生は、見るのも嫌という風情で、自分の膝の上に乗っているかばんの向こう側をおそるおそる覗き見、15cmもはなれたところでしきりに「しっしっ」とジェスチャをする。
一方の羽虫は、ここは安全地帯と見切ったのかどうか、シカトを決め込む。

僕はまるまる一駅分、その様子をぼうっと観察していた。そんなに嫌なものかなあ?なんて思いながら。

彼女はついに一大決心をしたらしく、勢いに身を任せて羽虫まで5cmの距離まで手を近づけ、渾身の一球とばかりにスナップを利かせて「あっちへいけ」のジェスチャをした。瞬間、羽虫はふわりと浮き上がったが、あろうことか彼女のカバンに可愛らしくぶら下がっているドナルドダックの眼球に不時着。

これはちょっとしたグロテスクな光景だ。映画のカバーにこんなのがあったような。などと思う間もなく、彼女は静かなパニックに陥り、今にも泣き出しそうな表情に変わった。

やれやれ。

僕は音もなく彼女のほうへ二歩進み、指先で羽虫をつまみ、二歩後退し、もとのシートに腰掛けた。
なんてことはない。燐粉すらないのだ。素手で無問題である。

それから丸々一駅分、僕は指先の羽虫をじっくりと観察し、電車が止まるとそいつをドアの外へ放した。彼女はその次の駅で降りた。

その後彼女が友人に語る話の中で、僕がヒーローになってるかキモイ男になっているかはちょっと興味があるが、まあ、8割方キモい方だろう。観察がまずかったな。反省している。

return top