バイオレンスな暗号強度

サイエンス・フィクションを見て、「有り得ないよね~」と笑うだけなら三流。
なんらかの考察をするのが二流。
それをネタに論文とか書いちゃうのが一流。
ってことで、1つ前のエントリィはただの前置きです。

暗号の解読に挑む人物(「挑戦者」と呼ぶことにする)が、十分な金と残忍さを持っている、という仮定を置く。
さらに、秘密を知っている人間を「保持者」と呼び、その秘密に自分の命と同等の価値を認めている、とする。同等、というのは、金銭的なもので買収されることはないが、自分の命と引き換えとなれば秘密を漏らす場合がある、という意味だ。
(秘密を保持するのは人間でなくても良い、と思うかもしれない。当然、現代なら重要な情報は電子情報で管理すべきなのは間違いない。だが、そこに辿り着くまでにどれだけ複雑な経路があろうと、その経路の最後において人間がなんらかの秘密を握らなければならない。こうして暗号と解読の対決は、バイオレンスな仮定を置いたとき、かならず人間対人間の生身の対決に陥る。)

目的は、保持者の命を奪うことが挑戦者にとって無意味であるようなシステムを考えることだ。
もちろん、秘密が双方から永遠に失われてしまうことも同様に避けねばならない。

A.
100人のメンバそれぞれに専用の通信装置を持たせる。これには液晶ディスプレイと”escape”ボタンがついている。100人のうち一人だけのディスプレイに暗号を解くパスワードが表示されており、escapeボタンを押した途端にそれは消えて別の99人からランダムに選ばれた一人に「権利が移る」。当然そのときパスワードは変わってしまうので、移る前の画面に表示されていたものは無効になる。escapeボタンは体内に埋め込まれたICチップと連携しており、保持者が即死した場合も即発動する。一度でもescapeが実行された装置へは二度と権利は戻ってこない。
このシステムは、挑戦者に最大100人の犯行を要求する。100人それぞれが相応のセキュリティの下で生活しているのであれば、これはかなりの重労働だ。危険を感じた時点で保持者はその危険の種を自分から完全に切り離すことが出来るわけで、挑戦者にとって殺人のメリットはなくなる。

B.
声紋認識等の認証システムを用いた場合、挑戦者は、銃口を向けつつも保持者を誘導し、その「鍵穴」まで辿り着かなければならなくなる。その時点まで、保持者の生命は保証されるというわけだ。そこに、ある種のシェルター(言うなれば巨大な金庫)があり、その室内には一人しか入れないようにする。これは技術的に可能だ。センサによって室内の人数を数えることは出来るし、二人以上であれば例え正しいパスワードを入力しても開錠しないようになっていれば良い。こうして保持者は、ひと時の安息を得る。ゆっくり時間をかけて、用意されたコンピュータを通じて応援を呼ぶなりすることが出来るだろう。

どちらのシステムも重要な点は、そういう仕組みになっていることがあらかじめ挑戦者に知られていても機能する(知られていないと有効に機能しないとも言える)、ということだ。
ついこの前の世界大戦の時代まで、「暗号を解く」とは、暗号の仕組みを解くことに等しかった。現代は違う。暗号の「仕組み」と暗号の「鍵」が分離されている。鍵を秘密保持することは仕組みを秘密保持することよりはるかに容易だ。仕組みはむしろ公開され、大勢の人間によってテストされるほうが良い。

ちなみにAとBそれぞれ1つずつ自分で抜け穴を見つけてしまったが、それは書かないでおこう。大丈夫、僕はバイオレンスじゃないから。

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